YBS山梨放送のラジオCMコンテスト、「1ミニッツ・ストーリーCMアワード2018」にて優秀賞を受賞しました!
ポスティングサービスを展開する「まかせてグループ」様のCMです。
掲載期間が過ぎてしまったので、原稿を紹介します。

(オリンピックの男子水泳決勝戦。観客の歓声で会場が盛り上がっている)
実況中継:日本の山田、水泳男子200メートル金メダル獲得です!!

(選手の心の声)
オリンピックで金メダルを獲るという夢がついに叶った。
客席を見ると、お母さんがぐしゃぐしゃになって泣いていた。

僕の水泳人生は、お母さんといつも一緒だった。
子どもの頃は、毎日のように水泳教室に送り迎えをしてくれ、クタクタに疲れた僕においしいごはんをつくってくれた。
パートをかけもちしていたのは、僕の遠征費を稼ぐためだと知ったのは、大人になってからだ。
本当にありがとう。
そういえば、水泳と出会えたのもお母さんのおかげだった。

母:水泳教室行ってみる? チラシがポストに入ってたんだけど
子どもの頃の選手:うん!

NA:一枚のチラシが人生を変えることもある。ポスティングのまかせてグループ。

このCMができるまでの過程をまとめてみました。
あらためて文字にしてみると、文字のコピーのつくりかたとまったく同じ!
キャッチコピーづくりの参考にもしてみてください。

1.課題を明確にする

ラジオCMにも文字のコピーにも、目的があります。
たとえば集客、新製品のPR、リピーター増加など。どんなにカッコイイ響きの言葉でも、ここがズレていたら単なるポエムです。

「このラジオCMを通じて、クライアントは何を実現したいのか」を何はともあれ真っ先に把握しなければなりません。
そしてコピーづくりに迷ったときは必ずここに戻って課題を再確認します。
なぜなら夢中になりすぎると「つくること」が目的になってしまい、なんのために仕事をしているのか忘れてしまうことがあるから。

課題の把握は広告づくりの根幹部分。ここを理解せずに書き出すのはご法度です。

ただし今回はコンテストのため、課題設定はかなり自由。まずは課題を設定するため、次のステップに進みました。

2.お客様や商品について徹底的に調べる

お客様や商品ついて知るのは基本中の基本。
仕事であれば直接会ってヒアリングができるのですが、今回はコンテストのためホームページをくまなくチェックしました。

まかせてグループ様のホームぺージ
https://www.makasete-group.net/
チラシのポスティングサービスを取り扱っている企業です。
スタッフ教育に力を入れたり、現地を歩いたからこそわかる情報を地図に書き込んで効果的に配布する仕組みをつくっていたりと、こだわりを持って仕事に臨んでいることがわかりました。

さて、課題設定に話を戻します。
先方のオーダーは「ポスティングの知名度やイメージアップにつながるCM。チラシ配布を希望する企業向けでも、チラシを受け取る人向けでもOK」。

ホームページでポスティングに対する工夫や情熱が非常に感じられたので、企業向けにそこを訴求しようかと、この段階では思っていました。

でも大切なのは、現物と現場を知ること。
私の住んでいるマンションにもチラシが毎日投函されているので、集合ポストを見に行くことにしました。

3.現場へ足を運ぶ

毎日見ているマンションの集合ポスト。
よくよく見てみると……。


あるわあるわ、捨てられたチラシの山!


「チラシは持ち帰って処分してください」って貼り紙があるのに、ポイポイ置いていくマナーの悪い輩がいるもんだ。
でも、要りもしないのに投函されたら確かに迷惑だよなあ。
「勝手にゴミを入れられたのに、どうして持ち帰らないといけなんだ」という心理なのかもしれません。
ポストを見ると、「チラシお断り」と書いている世帯もちらほらいます。

そうか、チラシは迷惑なんだ。
企業の理念やこだわりだけを読んでみると、チラシにはとても広告効果があり地域社会に貢献しているような印象を受けます。


でも現実は違う。

そもそもチラシの一般的なイメージは「不要」「迷惑」など、ネガティブなものです。
この状況で「ポスティングしませんか?」とアピールしても白々しいのでは?

そう気づき、いちばんの課題は「たまにはチラシでもじっくり見てみようか」と思わせることではないかとひらめきました。
コンテストの課題は「ポスティングの知名度やイメージアップにつながるCM。チラシ配布を希望する企業向けでも、チラシを受け取る人向けでもOK」でしたが、これを「チラシを受け取る人向けに、ポスティングのイメージアップのCMをつくる」に設定しました。

ホームページを読むだけでは、この視点に気づけませんでした。
コピーを書くときは、頭と同じくらい足を使うことが大切です。

4.現物を手にし、使うとどうなるかをシミュレーションする

次は現物をチェックします。
コピーづくりのときには、可能な限り商品やサービスを実際に使うことが大切!

毎日のように見ているチラシですが、目を皿のようにしてヒントを探します。
スーパー、ショッピングモール、学習塾、フリーペーパー、ファミレス、マンション、求人広告……。

よーく観察するうちに、ひとつだけ“仲間はずれ”を見つけました。
わかりますか?

答えはマンションです。
これだけ、飛びぬけて価格が高い。
人生を左右するような買い物の案内がスーパーの特売情報と一緒になっているなんて、これはおもしろい!
ここに気づき「一枚のチラシが人生を変えることもある」をコンセプトにすることを決定しました。

問題は、どんなストーリーに仕立てるかです。
チラシを見てマンションを買っただけでは、普通の出来事です。驚きや意外性がなければおもしろくありません。


再度チラシをあさっていると、子ども向け水泳教室が目につきました。
そのとき思い出したのが、オリンピックでメダルを獲ったある水泳選手のインタビュー。水泳を始めたきっかけを聞かれて「母がママ友をつくりたくて、僕を水泳教室に連れていったんです」と答えていました。

この記憶がよみがえった瞬間、コンセプトである「一枚のチラシが人生を変えることもある」のストーリーが完成しました。

なんとなく水泳教室のチラシを手にとる

子どもを通わせてみる

その子が世界一のスイマーになる

これでいこう!
コンセプトとストーリーの概要が完成するまでは数日程度だったと思います。
でも、長いのはこれからでした……。

5.頭の隅で常に考え、アイディアの神様を呼び寄せる

他のラジオCMコンテストは20秒など短めの課題が多いですが、YBS山梨放送は60秒。短くまとめるのも難しいけれど、1分間のストーリーを生みだすのもかなり難易度が高い。


いろんなアイディアが浮かんではボツになりました。

2週間以上何も浮かばず、結局ストーリーが固まったのは締め切り当日。
朝、歯磨きをしているときに急に思いつき、ブクブクうがいもそこそこに、口角に歯磨き粉が残ってるんじゃないかくらいの勢いでパソコンに向かって10分程度で書き上げました。

何も思いつかずあきらめかけていたので、アイディアの神様に感謝でいっぱいです。
とはいっても、偶然に神様が通りかかったとは思っていません。


いつも頭のどこかで考えていたからこそ、脳内の記憶や日々の出来事と化学反応を起こしてアイディアが降ってきたんだと考えています。

人気作詞・作曲家がテレビに出演していたとき、とてもカッコイイ発言をしていました。
「アイディアが降ってくるんですか?」と聞かれて、「いや、必要なアイディアを引っ張ってくるんです」と。
ああ!
私もアイディアの神様をいつでも召喚できるようになりたい!

この領域に達するまでコピーを書きまくります。

審査員の評価と反省

審査員の三井明子さんからは「一枚のチラシが人生を変えることもある、というコンセプトが秀逸。チラシからはじまるこんなサクセスストーリーが本当にありそう」というコメントをいただきました。


ここまでは計算どおりでしたが、意外だったのは「社員のモチベーションを上げる効果もある」という指摘。顧客へのメッセージばかりを意識していましたが、代表者や社員に事業の意義に気づかせるのも、コピーライターの役目なんですね。
今後はこれも意識しようと思います。

反省点はタイトルです。
なんだよ、「チラシをきっかけに金メダリストに」っていう、まったく洗練されていない文章。「金メダリスト」でいいじゃん。
先ほど書いた通り、締め切り当日に急にストーリーを思いついたため、興奮気味でタイトルにまで意識が行きませんでした。
まさかタイトルまで掲載されるとは思わなかったので(このへんが初心者丸出し)。


しかもコメントもかなり雑な日本語で提出してしまったのですが、それがほぼそのままラジオで読まれるというオマケつき。
ちなみに送ったコメントはこれ。

「一枚のチラシが人生を変えることもある」をコンセプトしました。いつもはすぐ捨ててしまうチラシの中に人生を左右するような情報があるかもしれないと思わせ、チラシをよく見てみようと思ってもらうことを目的としています。

「思う」が一文に二回も出てくるなんてダサすぎ!
ライターとは思えない雑な文章です。
ああ、恥ずかし。

ちなみに、水泳選手の名前をどうして「山田」にしたのか記憶にございません。
どうしてよりによって、そんな陸っぽい名前にしてしまったのか。
「水野」とかにすればよかったかな。

反省点も恥ずかしい点も山ほどありましたが、とにかく初挑戦で初入賞が嬉しいです。
一発屋にならないよう、挑戦し続けます!
若いころミスコン荒しができなかったから、腹いせにコピコン荒しをするわ。